固体の混合物が入った液を移送するスラリーポンプのトップメーカー【大平洋機工株式会社】
製造現場では、固体の混合物が入った粘土、摩耗性の高いスラリー液が出ることがある。大平洋機工株式会社は、このスラリー液を移送するスラリーポンプをはじめとする特殊ポンプ、各種ミキサーなど産業用機械の設計・製造・販売を行う総合メーカーだ。主要製品であるワーマンポンプは14万台を超える納品実績を有し、スラリーポンプのトップシェアを保持してきた。また、シュビングポンプにおいては下水処理場のパイプ輸送用脱水ケーキ圧送ポンプとしてトップシェアを誇り、ミキサー類は8000台を超える納品実績を有する。これらの実績を背景に、2トントラックで運搬できる多目的モバイルポンプユニット「Super Betsy(スーパーベッツィー)」を2018年に開発、水害による浸水時に活躍している。さらに電気自動車(EV)の次世代電池として注目される全固体電池にも対応した高温・加圧対応のミキサーを開発、自社製造に乗り出す。また、ハイテク製品に使われる深海レアアース(希土類)泥の採鉱プロジェクトへの特殊ポンプの供給も決まっている。
水害時の車載ポンプ、深海レアアース泥採鉱、二次電池全般に対応した高温・加圧ミキサーの開発、製造
●2022年に新機部創設、新事業・新製品開発による社会貢献が進行中
●2024年7月に総合事務所竣工、ワンフロアにまとめて一体化推進
鋳造設備以外の設備を自社保有、迅速に高品質製品を生産
同社は1984年に大平洋金属株式会社の全額出資により設立、1999年には株式会社荏原製作所が筆頭株主に、さらに2016年にはラサ商事株式会社及び株式会社パシフィックソーワが横並びの筆頭株主となった。現社長の前原隆史氏は2019年に入社、2021年6月に社長に就任した。
この前原社長が組織を変えていく。「大平洋機工は大きく分けてポンプ、粉体機械、管理・品質保証の3つの文化があった。事務所も別々だった。文化のベクトル合わせをしようと、2021年から総合事務所建設プロジェクトをスタートさせた」(前原社長)。一方、2022年には中期5カ年計画をスタートさせ、経営目標の一つである「社会に共通の新しい価値を産む新技術・新製品の創生」の具現化に乗り出し、「新機部」を創設した。深海レアアース泥の採鉱プロジェクトについては、新機部の前身である企画開発室時代より特殊ポンプの供給でかかわっていたが、新機部創設以降もプロジェクトの成功に向け活動している。
ところが、社内改革が進みつつある中で、ポンプの一部部品における材質表記の誤り及び材質証明書作成過程における不適切行為が見つかり、2023年4月に公表した。前原社長は「これらの業務に一部の社員しか介在しないから事件が起こった」と無念の思いをにじませる。組織の管理体制や社内風土の見直しを行った。また納入先のお客様への訪問説明、無償点検に多くの労力を費やすことを見越し、2022年度決算に特別損失1億5000万円を計上した。高い授業料だったが、信頼回復と社内改革の機運は一段と高まった。
次代の商品開発も加速、 新人事制度のスタート
全固体電池を含む二次電池材料に対応した高温・加圧ミキサーは、従来のミキサーよりも100℃高い300℃の高温加熱を可能としたもので、第一種圧力容器の規格をクリアし、全固体電池のほか薬品、食品や素材などの機能向上・コスト削減への貢献が期待される。前原社長は「自社製造が8合目まできた。早ければ2026年度中に実現できる」と自信を示す。足もとの業績は順調で、前原社長は「売り上げより利益重視で堅実に伸ばしていく」という。
課題は、社員の採用と育成だ。「人が企業の根幹」と話す前原社長は、2022年に採用教育室を立ち上げ、育成システムを「社内で系統だてて統一」(前原社長)した。資格給等で自動的に昇給していた給与は「2023年は組合員に平均昇給率3.6%のベースアップを実施した」(前原社長)。さらに年度末の臨時賞与を2023年まで3年連続で実施している。また2023年度に、より公平公正な人事評価を実現させるため、人事制度の見直しに着手し、2024年度に新人事制度をスタートさせた。残業時間は「年度末に官庁からのポンプ需要が集中する」(前原社長)ものの、月平均して10時間程度(2023年実績)と少ない。女性が全体の1割の職場だが、育休制度も整備されている。
社内融和の象徴である総合事務所は2024年7月に竣工し、真新しい事務所で部門間の垣根なく、社員が生き生きと働いており、社内改革と社会的な課題解決は着々と実を結んでいる。
《わが社を語る》
■会社データ
所在地:千葉県習志野市東習志野7‒5‒2
拠点:本社および東京営業所
設立:1984年7月1日
代表者:前原 隆史
売上高:54億100万円(2024年3月期)
従業員数:181人(2024年9月30日現在)
事業内容:スラリーポンプ・汚泥ポンプ・各種ミキサーを中心とした一般産業用機械製造業
https://www.taiheiyo-kikou.com/
大平洋機工は2024年7月に設立40周年を迎えました。私たちの企業理念は「技術開発による社会貢献」「社員の幸福と社業の発展との調和」です。社会と真摯に向き合うために、2023年には自社の過ちを公表し、対象顧客に対するご説明、ご対応と同時に再発防止策に取り組みました。この再発防止策とも絡みますが、社内改革は着々と進み、手ごたえを感じています。 一方、水害時の車載ポンプ、EV時代に不可欠な二次電池全般に対応した高温・加圧ミキサー、さらには深海レアアース泥採鉱プロジェクトへの特殊ポンプの供給など当社ならではの新事業・新製品が動き出し、楽しみな状況となっています。社会の課題解決に価値観を見いだしていただける方はぜひ仲間になってください。ともに、新しい大平洋機工をつくっていきましょう。