・鉄道事業というインフラにかかわり、息の長い製品を顧客と作り上げた
・限られた市場で、安定期に比べ工事総量減少傾向の中でも顧客と共に歩めたこと
株式会社電業が創業当時から製造・販売する「電車線金具」は、鉄道の線路上約5メートルの空中にあり、電車に電気を供給する架線を適正な位置に保つために欠かせない金具。鉄道という重要な交通インフラ維持の〝要〟となる製品だけに、高信頼性が求められる。通常保守だけではなく、災害復旧での緊急対応など、さまざまなニーズにきめ細かく対応できることを強みとしている。
住民の足確保へ災害復旧に尽力
電業は1919年の創業以来106年にわたり、電車線金具を中心に鉄道事業にかかわってきた。その重要性を認識したのは「関東大震災の復旧工事だったと聞いている」と濵谷和也社長は振り返る。関東の企業が壊滅的被害を受け、関西から物資供給できたことが大きなモチベーションになった。昨今も全国各地で数多くの災害が発生しているが、幸いにも工場に被害を受けることはなく、早急な物資供給に努めた。そうした経験から「災害発生時の緊急対応を何とかしなければ」(濵谷社長)との思いを強く持つ。電車線金具の役割は鉄道を普通に運行させることにあり、日常的には全く目立たない存在。ところが災害が発生すると、鉄道は地元住民の足として重要なインフラだけに、復旧活動が注目される。このことから「普段は目立たなくても、こうした場面であらためてその存在感を認識する」(同)こととなり、社会的な重要性を再認識させられる。
電業が現在の業態になったきっかけは東海道新幹線建設までさかのぼる。それまで都市部中心の電気鉄道が、東海道新幹線建設を契機に地方路線にまで広がり、1950年代半ばから1975年にかけ全国各地で電化工事が進められた。当時、長時間にわたり工場を稼働させることが常態化していた。これは、電車線金具が工事の最後に使われるため、前の工事遅れのしわ寄せをまともに受けるからだ。さらに鉄道は蒸気機関車から始まり、電気鉄道は後から導入されたものであるため、「業界では新参者扱いだった」(同)とこぼす。
現在は新線建設や電化工事は減少し、既存電化路線の保守工事の割合が多くなっている。新線建設や電化工事では一つの区間を一気に建設するため、類似の金具を大量に使用することになる。それに対し、保守工事はさまざまな区間を少しずつ工事していく。使う箇所によって機能は同じでも形状が異なる製品も多いため、多品種少量生産体制が求められており、取扱製品数は数万点にも上る。それでも電業は、創業当時から有する鋳造技術が確立しており、1個単位で鋳造できる体制を取れることで顧客の要望に応えている。その上で、現場作業員を含め多くの事業者の人手不足が顕著なだけに、「無駄な作業が発生しないよう、瑕疵のない製品を提供する品質管理は厳密に行っている」(同)と製品品質には自信を持つ。
成長に必要なのは時代に適合した進化
その半面、独自製品の開発はないに等しい。製品が活用されるフィールドが顧客側にあるため共に作り上げることが一般的。「これまでも、これからもこのスタイルは変わらない」(同)と、今後も鉄道事業者とともに改良・改善を進める考えだ。その過程では鉄道事業者の工事部門や技術部門とやり取りし、鉄道事業者が描いたものを具現化することがミッションになるが、これが電業の技術やノウハウの蓄積につながったことは間違いない。「こうした改良・改善への取り組みを100年続けてきた積み重ねが、企業経営が成り立つベース」(同)と捉える。また、昨今の鉄道設備保守の自動化や遠隔監視への移行に対応し、現場作業を極力軽減できる作業性を向上させた金具を共同開発し投入するほか、設備の監視装置や測定機器の供給を始めるなど、社会状況に応じて電車線金具以外の製品供給も行っている。
創業以来、顧客と共にその時々の状況に応じた取り組みを進めてきた電業。鉄道事業を巡る進化・変化に対応しつつさらなる成長・発展につなげるために濵谷社長は「時代に適合した進化が必要」とした上で、「次の世代が顧客、協力会社、仕入先と一緒に作り上げなければならない」と説く。こうした思いが、あえて企業理念や社是を設定しないことの一因なのかもしれない。

代表取締役社長 濵谷 和也氏
会社DATA
創業:1919(大正8)年5月
設立:1939(昭和14)年4月
所在地:大阪府東大阪市高井田中2丁目5番25号
資本金:9,800万円
従業員数:112名(2025年6月1日時点)
事業内容:鉄道用電車線金具および測定機器の製造販売
URL:https://www.dengyo.co.jp/