シン・エナジー株式会社は太陽光発電はもとより、バイオマスや風力や水力、地熱などあらゆる再生可能エネルギーを取り扱う。しかも電源開発コンサルティングから資金調達、設計・施工や運転・保守まで一貫してカバーするのが特徴だ。エネルギー産業を通じて地域に新しい価値を創出し、社会変革を成し遂げることをミッションにしている。
再生可能エネルギーと電力事業による地域価値の最大化をサポート
・幅広い種別の再生可能エネルギーを扱う
・地域資源を循環させエネルギーの「地産地消」を目指す
(左)カーポート型太陽光発電設備
(右)一宝第一水力発電所
経営理念をもとにビジネスモデル確立
同社の前身である「洸陽電機エンジニアリング」は1993年に創業。電気工事からはじまり、次第に省エネ関連も受注するようになる。取り巻く環境が急速に転換し始めたのは、1997年に京都で開かれた気候変動枠組条約第3回締結国会議(COP3)での京都議定書の採択。経営理念「未来の子どもたちのためにより良い地球環境を残します」を策定し、2011年の東日本大震災を機に再生可能エネルギー事業に大きく舵を切った。2018年、社名変更と同時に経営理念を「未来の子供たちからの“ありがとう”のため 生きとし生けるものと自然が共生できる社会を創造します」に改定した。同社の創業メンバーである乾正博社長は「経営理念に引っ張られる形で今のビジネスモデルが確立した。早い段階で理念に基づく軸を形成できたのが成長の要因」と分析する。
また2012年に施行された再生可能エネルギー特別措置法は、飛躍に向けた追い風となり、売り上げは10年あまりで35倍、350億円以上まで拡大した。全国で再生可能エネルギーによる発電事業を手がけているが、もっとも注力しているのはバイオマス発電。国土の7割は森林が占めており、地元産材を有効活用すれば地域活性化にもつながる。同社は「地域の未利用有機性資源を燃料化、肥料化することで資源と経済が循環するビジネスモデルを構築している」という。土壌改良や肥料分析などから一貫で手がけるところは少なく、「バイオマス循環圏を全方位で手がけることができる」と、胸を張る。
その一例が宮崎県串間市の「大生黒潮発電所」。地域の未利用木材を利用し発電、熱利用を行うことで地域林業の活性化、化石燃料の削減、新規雇用の創出に寄与している。地元企業が過半数以上を出資する発電事業会社を新たに立ち上げ、設備には、木のポテンシャルを最大限生かすことのできる小型ガス化発電装置を採用した。さらに発電所でつくられた木質ペレットを地元温浴施設や市民病院に販売することでバイオマス利用の輪を広げ、副産物として生まれるバイオ炭の農業利用など、発電にとどまらない面的な展開を進めている。地域に根差した発電所であるためには、地域資源を循環させながら、会社も地域も稼げる仕組みを作ることが重要と捉えている。
一方、現在最も期待しているのが電力販売である。同社は14年に高圧需要家向け、16年には低圧需要家向けの電力販売を開始した。しかし電力市場高騰の影響などで22年には高圧から撤退し、低圧も新規申し込みを中断していた。その後体制を見直し、申し込みを再開。初期費用や解約手数料がゼロという料金体系や、電気の使用量・時間帯に基づいたプランが功を奏し、改めて多くのお客様に選んでもらえる状態となった。これも過去の失敗の経験を生かした事例であり、簡単にあきらめない企業風土が顧客価値創造につながった。
(左)西宮バイオガスプラント
(右)奥飛騨第一バイナリー発電所
経営を「ガラス張り」で人材育成
急成長した会社らしく、社員の平均年齢は30歳代後半と若い。若い組織を鍛える教育メニューは多彩だ。例えば「ネクストボード」というシステムは、若手社員が「すべての役員が参加する経営連絡会」など社内の重要会議に参加できるというもの。これは「可能な限り情報を社内に開示することで、経営をガラス張りにし、次世代の幹部を育成したい」との思いからだ。また毎週1回、30分間「ちょいガヤ」という雑談会を設けている。まったく異なる部署の社員を8人単位でグループにし、会社の課題や社会問題、ひいては人生哲学などを語りあう。毎回異なる顔ぶれで、社員のコミュニケーション活性化の一助になっている。乾社長が期待する「自分で学び自分で考え、行動できる人材」は着実に育っている。
《わが社を語る》
■会社データ
所在地:神戸市中央区御幸通8-1-6神戸国際会館14階
設立:1993(平成5)年9月
代表者:乾 正博
資本金:7億7,225万0,775円
従業員数:137人(2023年10月末時点)
事業内容: 再生可能エネルギーの創出、及び電力の販売
U R L:https://www.symenergy.co.jp
地域で必要なエネルギーを地域資源で生み出し、域外に流出していたお金を域内で循環させることが未来の地域づくりには欠かせません。当社はエネルギーを基軸にした新しい社会づくりを目指しています。化石燃料に頼ったエネルギーの世界は必ず変わります。
長い歴史の中で、常に順風満帆で成長した会社はありません。当社もご多分にもれず失敗を繰り返してきましたが、経営理念のもと方向性が明確だったことが今に繋がっています。渋沢栄一さんには「論語と算盤」という著書がありますが、たとえていえば当社はこれまで「論語」寄りだったと思います。ようやくここ最近は「算盤」寄りになりつつあり、「稼ぐ」ことを一層意識するようになってきました。