認知症対策の国プロで異分野の研究者と装置を完成
リケイ 認知症はいまや65歳以上の5人にひとりが発症するそうです。社会的に重要なテーマですね。
鷲野 アルツハイマー病では、脳内にアミロイドβが蓄積することが代表的な病理変化の一つとして知られています。こうした変化は症状が現れるかなり前から始まるため、できるだけ早い段階で病態を捉え、適切な治療や経過観察につなげることが重要です。三菱電機では、アミロイドβに結合する機能を持たせた磁気ナノ粒子を用いて、その分布を磁気的に画像化する技術を研究してきました。私が参加したのは2021年です。医学や薬学の知見も必要ですから国のプロジェクトとして大学や医療関連企業のみなさんと共同研究を進め、私も医学や薬学を勉強しました。まさか動物実験をすることになるとは思いませんでしたね。違う分野の方々と一緒にプロジェクトで一つの成果を目指すのは、難しいけれど面白いです。
測定装置で作業をする鷲野さん。自身が学んできた研究以外の知識の吸収も欠かせない
リケイ 装置の開発は、どんなところが難しかったのですか?
鷲野 人の頭部サイズまで装置を大きくすると、コイルも大型になり、必要な電力や発熱が一気に増えます。単純にスケールアップすると病院に置ける装置にならないので、装置サイズと電力をどう抑えるかが大きな課題でした。医療現場からも、病院に設置できる現実的な大きさが求められます。鍵になるのは、磁場を発生するコイルや鉄心および電源設計と、微弱な磁気信号を取り出す信号処理です。三菱電機にはモーターや発電・変電機器などで培ってきた、電磁設計や制御の技術があります。さすがだなと思いましたね。そんな社内の技術を集め、社外のみなさんと連携して、きちんと動く「装置」として形にしました。嬉しかったですね。プロトタイプでは、人間の脳に相当するサイズの領域で磁気粒子を撮像できることを確認しました。人を対象としたサイズのMPI(※)は、世界的にもまだ研究開発の途上にあります。
MPI(Magnetic Particle Imaging:磁気粒子イメージング)とは
磁気粒子イメージング(MPI)は、体内に注入した酸化鉄ナノ粒子などの磁性粒子の磁気信号を検出して体内を画像化する新しい医用イメージング技術です。装置が作る「磁界がゼロとなる領域」を素早く動かし、その領域にある磁性粒子の磁気応答を捉えます。主に生体組織の信号を画像化するMRIやX線を用いるCTと異なり、投与した磁性粒子を高コントラストで画像化できるのが強みです。血流や血管の動態観察、腫瘍などへの磁性粒子集積の可視化、再生医療における細胞追跡への応用が期待されています。
失敗を楽しもう。遊びがないと創造性が消える
リケイ 完成したプロトタイプは、研究者の遊び場として新設した「sPARK Lab」の隣にあります。ユニークな研究者が多いから『遊び場』で活発な議論があり、新しいものが生まれるのですね
(左)sPARK Labで同僚と談笑する鷲野さん。こうした「つながり」が新たな発想を生む
(右)sPARK Labに掲げられているメッセージ
鷲野 製品の試作開発は事業部が担当することが多いです。研究所であれだけの規模の装置を作り上げるのは貴重な経験でした。それぞれ異なる分野の専門知識を持つ研究所の人間たちが、ゼロから組んで一気通貫で「もの」を仕上げるのは、とても面白かったです。私自身、初めての国のプロジェクトでしたし、人に恵まれた非常に実りの多い研究でした。
リケイ 後に続く若者へのメッセージを。
鷲野 研究を続ける上で大きな力になるのは、未知や試行錯誤を楽しむ力です。失敗を恐れないっていうのは、口で言うのは簡単なんですけど、意外に難しい。もちろん仕事なので、納期もありますし、避けなければいけないミスもあります。でも研究では、やってみた結果、予想と違ったということもたくさんあります。そこを面白がれないと、新しいものはなかなか生まれないと思うんです。ユニークな先輩は、うまくいかなかったときほどチャンスだと言っていました。「やったね、チャンスじゃん」みたいな(笑)。ボトムアップでテーマが出てきて、自分で提案した研究をやらせてもらえるのはすごいことだと思います。一緒に失敗を楽しめる後輩が来てくれたら嬉しいです。
先端技術総合研究所は、多彩な技術をさらに進化させ融合するとともに、社外パートナーとの共創も活用し、三菱電機ならではの創意工夫により、複雑化、多様化する社会課題を解決するべく挑戦していく。積み重ねてきた伝統と実績をベースに若い技術者たちが考え抜き、解決策を見出し、誰もが共感できる、活力とゆとりある社会の実現に向け、たゆまない技術革新によって未来を紡ぎだしてゆく。
企業データ
三菱電機がより深くわかるWebサイト/採用情報
https://www.mitsubishielectric.co.jp/corporate/randd/laboratory/advanced_technology/
三菱電機株式会社
本社:〒100-8310 東京都千代田区丸の内2-7-3 東京ビル
資本金:175,820百万円
従業員数:連結150,386人
売上高:連結5,894,747百万円
事業概要:ビル、産業・FA、公共、エネルギー、交通、自動車機器、宇宙、通信、半導体・電子デバイス、空調・冷熱、ホームエレクトロニクス、ITソリューション等の電気機器及びシステム技術の研究・開発・製造・販売