icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

精密切削工具のブローチで自動車量産部品を支える【日東精密工業株式会社】

キラリ、企業ハッケン!

2023.05.29

SHARE WITH

  • facebook
  • X
  • LINE

 ブローチと呼ばれる棒状の工具を使い、金属の穴を決まった形状に整えるブローチ加工。自動車のエンジン部品やミッション部品の量産に欠かせない精密加工法として知られ、このブローチを長年にわたり作り続け、自動車生産を支えているのが日東精密工業株式会社だ。短時間で金属内部に精密な溝が彫れる便利な加工法だが、決め手となるのが刃物となるブローチ自体の精度と品質。少しでもブローチが狂えば、部品は結合しなくなる。近藤敬太社長は、「精度を出すために最後は人の技が要る。すべてを自動化できない所にブローチの難しさと奥深さがある」と言う。

ブローチ、ゴム用金型、アルミダイカスト用鋳抜きピンの3本柱で躍進

●自動化設備と人の技術を融合させたモノづくり
●医療用製品などで拡大している精密ゴム金型の成長性

粛々と技術を継承

 かつては大手鉄鋼素材メーカーを中心に、多くの企業がブローチを製造していたが、そんな手間とニッチな市場性を嫌って撤退が相次ぎ、現在国内は大手2社と日東精密工業の3社のみ。世界的に見てもブローチのメーカーは数えられるほどしかない。自動車の電動化に伴い、将来的なエンジン、ミッション部品の縮小が避けられないとすれば、ブローチの需要も減る。ところが近藤社長は、「すべてがEVシフトするとは限らないし、車載用以外の需要もある。もともと当社の市場シェアは1割程度。市場がゼロにならない限り、しっかり技術を継承すれば、残存者利益を得られる」と、冷静そのものだ。
 そこには自動化できないゆえの暗黙知の戦略がある。例えば、熱処理したブローチの矯正作業。棒状のブローチはミクロンレベルの直進性が求められるが、熱処理すると微妙な曲がりが生じるため、人の手で一本ごとに曲がりを矯正する必要があるという。まさに自動化とは相容れない経験とノウハウの世界が存在するわけだ。属人的な知識を嫌う大手と異なり、こうした人の領域に対する絶対の自信と、これを極め、継承していく覚悟が同社にはある。ブローチに携わる大手技術者の多くがリタイアするのを尻目に、生産の自動化とともに粛々と技術の継承を進める日東精密工業。さらに直営業を基本とし、特注品など顧客の要望に細かく対応できる点も強みになっている。すでに競合する大手から、一部ブローチの製造依頼が寄せられているという現実は、同社の生き残りを確信させるのに十分だ。
 ブローチ以外にも、同社にはダイキャスト金型の主要部品である鋳抜きピンと、様々な分野の製品で使用されている精密ゴム金型があり、ブローチ事業と並ぶ同社の三本柱を形成し、ブローチ研削盤の内製、外販も行う。鋳抜きピンは、特定顧客向けの安定した収益を確保している一方、今後の成長ビジネスに位置付けているのがゴム製品用の金型事業。もともとは携帯電話のラバーキー用金型で事業を拡大したが、新型コロナに伴うワクチンのゴム栓需要が急増、「ようやく落ち着きを見せた」(近藤社長)としながらも、最近は医療分野の製品向けが増えている。車載用の防水、防振パッキン用金型など新規案件も獲得しているが、近藤社長は「携帯電話で培ったテンキー技術が当社の強み。クリック感は金型で決まると言われ、当社であれば顧客の要望に見合った製品を具現化できる」と強調、接点ラバーやキーパッドなどを軸に、多様な産業分野へ需要開拓していく。
埼玉県寄居町の本社工場

埼玉県寄居町の本社工場

知名度なくても誇りはある

 社員数は現在116人。「すべての社員が頭に入っている」と言う近藤社長は、社員との打ち解けたコミュニケーションを日常とし、ときには「社員と近すぎると指摘される」ほど、社内の風通しは良いようだ。企業の永続を第一に掲げ、そのために目標に向かってベストを尽くし、組織の団結と技術の継承、変化への対応を呼び掛ける。中堅の社員が多いこともあり、今のところ技術の継承は順調だが、「若い世代が少なくなれば、それも危うくなる」として、若い人の採用を積極化している。
 生産現場のDXが進むなか、自動化技術と人の技術の融合で成長を目指す日東精密工業。「大手企業のような知名度やブランドはないものの、当社のブローチがなければ、自動車産業は成り立たないという誇りはある」(近藤社長)。目と耳でモノづくりの本質を学び、手と知恵で自身の技術を極め、やりがいへとつなげられる現実世界がここにある。
(左)2019年より稼働している深谷第3工場
(右)NC平面研削盤による作業風景

日東精密工業イメージVP

≪わが社を語る≫

熟練の技と最新の設備を融合

熟練の技と最新の設備を融合

代表取締役社長 近藤 敬太氏

 当社は、自動車部品加工用の切削工具や精密ゴム金型、鋳抜きピンを製造販売する会社です。なかでも精密切削工具のブローチは、ニッチ市場ではあ
りますが、自動車のパワートレイン系部品を作るのに欠かせない加工法であり、数少ないブローチメーカーの1社として、自動車産業の発展に貢献してきました。カギを握っているのが、人が介在する技術領域です。どんなに自動化、デジタル化が進んでも、人の技術を必要とするのが、当社のモノづくりです。幸い当社には、若い世代も多く、明るく、楽しく、誰もが学べる環境があります。そして自身の手で技術を極めることが可能です。熟練の技と最新の設備を融合し、さらに若い力を加えて、今後も高精度な製品を提供し続けてまいります。

■会社データ

所在地:埼玉県大里郡寄居町桜沢1560-16
創業:1966(昭和41)年12月5日
代表者:近藤 敬太
資本金:2,430万円
従業員数:116名(2023年3月末現在)
事業内容: 精密切削工具の製造販売、各種金型製造販売、鋳抜ピン・中子ピン製造販
売、各種切削工具販売、各種工作機械販売
http://www.nitto-p.co.jp

RELATED